申し立てをし、Y弁護士が成年後見人に選任されました。( 弁護士 遠藤英嗣
氏記述の新聞記事より )Y弁護士は遺言内容を考慮せず、 「 後見計画 」を立
てました。その内容では、換価性の高いマンションを売却して利息が高い借入金
を返済し、売却代金の残りと持ち金で老人ホームの費用等を支払うというもので
した。この計画は家庭裁判所に提出され、何ら指摘を受けなかったということです。
成年後見人は自宅不動産を除き、本人の不動産等の処分を任意の判断でできること
になっています。Y弁護士も駅前のマンションを1億円で任意売却し、本人名義の借入
金5千万円を返済した。
譲渡所得税が引かれ、手元に残った現金は、総額4千万円ほどでした。
この4千万円の現金は、6年後にSさんが死亡したときには、葬儀代をわずか
に残すだけに減っていました。Sさんの毎月の施設利用費や医療費等のほか、
月額5万円の後見人報酬、Y弁護士の交通費と日当、不動産売却手数料や事
務処理手数料などの弁護士費用に充てられたからです。
Sさんの死後、遺言が開封されました。驚いたのは長女Bさんです。自分が継ぐ
はずだった財産がすべてなくなっていたのです。Bさんは裁判所に苦情の申し立
てをしましたが、納得のいく返事は得られませんでした。
Sさんが遺言にしたためた「思い」はかないませんでした。原因の一つは、成年
後見制度に関する知識がなかったことにあります。この場合、「 任意後見 」と
いう制度を活用しておくべきでした。任意後見人を長男か長女にして、マンション
は収益物件として売却等はしない、収益の一部をローン返済やSさんの生活費
などに充てる一という考えを任意後見人に説明し、考えを共有しておけばよかっ
たのです。
このように、後見制度は遺言を台無しにしてしまう可能性があります。これから
の相続対策は、 成年後見制度を十分に理解したうえで実施する必要があるの
です。(弁護士 遠藤英嗣氏稿参照)
- POSTED at 2016年01月31日 (日)